先生なんて言わせない
本当は怒ったり責めたりしたかった。
でも、樋渡さんは必死に泣くのをこらえてる。
そんな表情を見ていると、怒る気は失せた。
悪気があったわけではないのかもしれない。
ただ、間違った方向に行ってしまっただけで。
「佐野先生がいつも高村さんに構うから、悔しくて。私も佐野先生とふたりきりになりたかった。
ふたりで練習したかった。だから、転んですりむく程度のケガをすればって思ったの!」
「…嫉妬?」
何でも完璧な樋渡さんが?
「そうよ! だって、ずっと佐野先生が好きだったの! 留学する前からずっと!!
…それなのに、帰って来たら佐野先生の側には女の子がいるんだもの」
「ごめんな」
佐野先生が樋渡さんの頭を軽くなでながら、静かに口を開いた。
「俺は樋渡のこと、そういう風に見ることはできない」