先生なんて言わせない
「だ、大丈夫ですから…!」
とっさに手を振り払い、スタスタと先を歩いた。
まるで、顔を隠すかのように、背を向けて。
「なんだよ、急に。…って、あれ?」
俯くあたしの顔をのぞき込むようにして、佐野先生は言った。
「どうした? 顔赤いけど」
「ど、どうもしないですから…!」
早足で駐車場へと向かいながら、あたしはとうとつに理解していた。
手がつながれたあの瞬間に。
あたしは佐野先生が好きなのかもしれない。
ずっと佐野先生と手をつなぎたかったんだ。
他の誰でもない。
佐野先生と。
だから、だからあたしは――。
でもね、この言葉はあたしの胸の内にしまっておかないといけないね。
だって、佐野先生は先生だから。
先生と恋をしたって幸せにはならない。
あたしは先生とだけは恋はしない。
この想いも、いつか風化するその時までは、心の奥深くに大事にしまっておくの。