先生なんて言わせない
制止の意味もこめて、佐野先生の背中に言葉を投げかけた。
それを聞いた佐野先生の足がピタリと止まる。
ゆっくりとこちらに向き直り、口を開いた。
「樋渡なら帰したから。
だいたいの勉強を理解してる樋渡よりもおまえに教えないといけないから、帰ってもらった」
ドクンと心臓が鳴った。
樋渡さんよりも自分を気にかけてくれていることがうれしいのだと思う。
「でも――」
もう委員長に頼んでいるから。
そう言おうとしたけど、後ろから聞こえた委員長の声で言えなかった。
「悪い、高村。用事思い出したから帰るな」
申し訳なさそうにそう言って、カバンを抱えた委員長はあたし達に背を向けて歩き出した。
「う、うん。バイバイ!」
あたしはそう返すだけで精一杯だった。