先生なんて言わせない
安藤先生を上目で見ながら、つぶやいた。
自分が情けなくて、はっきり見上げることができないよ。
安藤先生は呆れたような顔をした。
「乙女のすがた しばしとどめむ」
「お…乙女のすがた しばしとどめむ?」
「そう。続けて言ってみて」
「え~と、天つ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ 乙女のすがた しばしとどめむ?」
「正解。百人一首は全部覚えるのが無理でも、
頭だけ聞いて下の句が出てくればいいから、天つ風―乙女のすがたって覚えても大丈夫だよ。
まぁ、後で暗唱テストもするからそれまでには覚えてほしいけど、それは大会の後だから」
「そうなの? 何で大会なら全部覚えてなくてもいいの?」
あたしは驚きで、安藤先生の顔をマジマジと見た。
「千沙、相変わらずだね。ホームルームで説明あったはずだよ」
千沙と呼ばれたことと、安藤先生の破顔にあたしはドキッとした。