先生なんて言わせない
「あっ、佐野先生。今帰りですか?」
後少しで安藤先生に追い付くというとき、聞き慣れた女子の声が聞こえ、あたしはとっさに振り返った。
――やっぱり。
佐野先生に笑顔で話しかけていたのは、樋渡さんだった。
胸がチクッと痛む。
ふたりは一緒に帰るのかな…。
「高村?」
安藤先生に声をかけられて、あたしは我に返った。
「すみません、今行きます」
後ろを振り切るように、あたしは前を向いて歩き出した。
安藤先生の黒い車に乗り込み、学校から離れた。
「百人一首大会が終わったら、話があるんだ。会ってもらえるかな?」
「話? 今じゃダメなの?」
あたしは安藤先生の方に顔だけ向けた。