先生なんて言わせない
「残念だねー。男の先生…」
廊下の先に見えた姿に、あたしは凍りついた。
急に立ち止まって無言になったあたしを心配する鷹井くんの声が、右から左へと抜けていた。
ここにいるハズのない彼がまっすぐ歩いてくる。
あたしに気づいて歩みをゆるめ、止まる。
耳に「千、沙」という彼のつぶやきが届いた。
雑音にまぎれても、それだけはとても鮮明に。
次の瞬間、逃げ出していた。
どこに向かってるのかわからない。
ただ、あの場から早く離れたくて、無我夢中で走っていた。
息が切れるなんて関係ない。
足が勝手に動く。
だけど、誰かにぶつかって止まるハメになった。
相手の顔も見ずに謝って、また走り出そうとしたけど、腕をつかまれてできなかった。
「高村?」