先生なんて言わせない
聞き覚えのある声に、思わず顔を上げると、そこにいたのは佐野先生だった。
その顔を見たとたん、一気に瞳が熱くなった。
「おまえ、どうしたんだ…?」
何をそんなに驚いているのか。
佐野先生は目を見開いて、こっちを見ている。
「…何がですか? どうもしないです」
あたしはなぜか先生をまっすぐ見ることができなくて、うつむきながら言った。
本当は今すぐにでも、また走り出したい。
でも、先生につかまれたままの腕が痛くて、振り払う気になれなかった。
「そんなコトないだろ…? そんなに泣いてるのに」
言われて、初めて意識した。
自分の瞳から涙があふれていることに。
熱く感じたのは涙のせいだったんだ。
あれだけ我慢していたのに、どうして?
「な…何でも、な…」