モノクローム
「私と春は似てるのかもしれないね…」
二本目のタバコに火を点けようとした時、秋が言った。
タバコに火を点けると、ライターの乾いた音が部屋に弾く。
「似てるって?」
「私は、周りから見れば愛する人と結ばれて、幸せな家庭を築いてる普通の主婦。
春は、周りから慕われて好きな人も居て、楽しい日々を送る学生。
だけど、二人共誰にも言えない事を持って、ただそれを願ってる。
誰かにちゃんと自分を見て欲しい…
そう、思ってたんじゃないかな…」
「誰かって?」
思わず秋のほうを向いて訊いたけど、秋は柔らかに笑うだけで何も言わない。
でも、何を言おうとしてるかは解る。
お互い近くの相手に望む筈なのに、側に居る相手に願ってる。
好き。
その言葉を口にするのはとても簡単だし、言えば通じ合えるのかもしれない。
だけど、その先がない。
だから、立ち止まったまま。
後にも先にも行けず、深い海に放り出されたみたいに、ただ漂っているだけ…
「春…?」
「少しだけ、少しだけこうしてて…」
そのまま引きずり落とされる気がして、秋の身体を抱き寄せた。
それからオデコに唇を落として、そのまま緩いカーブを滑って柔らかい場所に重ねる。
何かを求めるようで、探るような、長いキスをした。