モノクローム
「さて…」

シロの声で我に返ると、目の前には何本もの糸が垂れ下がり、ほのかなシャンプーの香りが鼻を通って行く。
それはつむじが見当たらないほど、綺麗な色した髪の毛だった。

私とは比べ物にならないほど、手入れの行き届いた髪は、お互いの年齢差や立場の差を大きく表してるみたいで、見てられなかった。


いや。
正確には、見ている暇もなかった。
シロはベッドに繋げた手錠を外し、それを引っ張るように私の体を起こして


「そろそろ彼女が来る時間だから、ごめんね」

そう言って、ベッドの脇の押し入れに私を詰め込む。
何か抗議の一つでもしようと口を開いたが、虚しくも目の前の戸は閉められる。


全く、可笑しな状況だと思った。
監禁して置きながら、彼女が来るからと隠す。
大人しく、彼の成すがままになってる自分も自分だが…。



「もう、どうでもいいや」

誰に聞こえる訳でもない言葉を吐き出し、壁に頭をもたげ意識を手放そうとした時。
軽快にチャイムが鳴った。
彼女の登場だ。

ガサガサとした音に続いて弾んだ声が響く。


「ごめん。待った?」

「いや。上がって」

「お邪魔しま~す」



語尾に音符が付いてるんじゃないか、と思うくらい彼女は楽しげな様子で部屋に入り、ふと足を止めた。

一瞬の静寂が辺りを包み込んで、私は目を閉じる。
そんな私を余所に、押し入れの向こう側では、2人の世界が繰り広げられていった。
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