モノクローム

雪原

それは、もっとも長い季節の始まりだった。



街には例年にない大雪が降り続き、もうすぐクリスマスと言う時期になっていた。



「すみません、何度も…」


「いえ…」




あの後、家庭に戻った私は何事もなく普通に暮らしている。
元と何ら変わりもなく…

週に一回程、自宅に訪ねて来たのは橘さんではなく、私と同じ年くらいの若い刑事だった。
あの時、春の背中を押した刑事は早瀬と言うらしい。

その早瀬さんにお茶を差し出すと、必ず決まって言う。



「あ…お構いなく」



そんな早瀬さんに私は首を横に振り、リビングの隅へ腰を下ろして窓辺を眺めながら話しをする。



「歩いて来たんですか?」


「えぇ。この雪じゃ、地下鉄の方が早いですから」


「大変ですね…何度も」


「…仕事ですから」



世間話しはこの辺にして置いて、とでも言うように早瀬さんはポケットから手帳を取り出し、ペンを手にして構えた。



「それで…何度も訊くようですが、加害者とは面識もなく、何もされてないんですよね?」


「えぇ」


「自分が監禁された、と言う意識もなかった…と」


「はい」




私がそう答えると、早瀬さんは手帳に視線を落とし、「なるほど」と言ってパタリと手帳を閉じる。
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