モノクローム
三日後。
私はようやく家を出た。
小さな肩掛け鞄を持って…
新しい家に行く途中、夫の車とすれ違った。
助手席に大きなお腹を抱えて、幸せそうに微笑む若い女性が居る。
その後ろの席では、夫の両親も居て、みんな幸せそうに笑っていた。
向こうの家族にしてみれば、ようやくお荷物が減った。そんな所なんだろう。
でも、私は何も感じなかった。
強いて言うなら
どうぞ、お幸せに。
それは、捨てられたからとか、裏切られたからとか、そんな感情から来る物じゃなく。
私と築けなかった未来を託すような、そんな感じだった。
夫の車を見送り、振り返る顔を柔らかな春の風が凪いで行く。
それは長い冬の終わりを告げ、新しい季節の訪れを知らせていた。
遠くに見える山肌は緑に包まれ、木々は芽吹き、道路脇の花壇にはタンポポが咲き誇っている。
私はそれを眺めながら、ゆっくりと歩いて行く。
急がず、焦らず、ゆっくりと景色を目に焼き付けながら、新しい家に向かって進んで行く。
温かい日差しを浴びて
風に髪を揺らし
匂いを感じながら
新しい道を歩いて行く。