心泥棒!!
「うん、でも、顔違って・・・。」

「昨日彼氏とケンカした。
携帯知らないし、当分会いたくないからいいけど。」

「なんで、そんなやつにしたの?」


自分でも分かったら苦労はしない。

ただ、裕子って人と私が似てるから
きっと、好みも似たんだろうな。


「黙ってんなよ。」


苦笑いする、満の口元に八重歯が見えた。

「満。もし、あんたのお姉ちゃんが
あんたのこと好きって言ったら・・・。」

「ないないないない。」

「なんで?」

「だって、あいつ彼氏一筋だもん。」


やっぱり、家族間は無いか・・・。


「あ、忘れてた。」


満と話しているのに夢中になって
和菓子の存在を忘れてた。


「悪ぃ。俺送ってく。」

自転車をよっこらしょっと出してきて
後ろを指さす。

「乗って。」

ラッキーと、思って後ろに乗る。

ついこの間までもう少し
小っちゃかった満は
気づけば、すごく大きくなってた。


「しっかりつかまってろ。」

背中をつかんでいた手を腰に回される。


「・・・・。」

満・・・。
耳が、真っ赤。


心臓の音が聞こえそうなぐらい
近い。

胸の奥の痛みが
だんだん、引いてく。


「満、今彼女いるの?」

「いねえよ!!なんだよ、いきなり。」

「いや、なんでもない。」

「好きなやつはいる。」

「へえ。」


和菓子屋の前で、急ブレーキがかかる。
適当に店員さんに詰めてもらう。

店から出ると、満は自転車を進行方向に
向かせる。


「心。あんまり無理すんなよ。」

突然の言葉に、驚いた。
けど、彼の優しさが、心に染みる。


「満、好きな人って誰?」


なんで、こんなこと聞いてるんだろう。

でも、今はどっかに心の支えが欲しかった。
家に着くまで満は黙ってた。
ひたすら。

「ありがとう、満。」

家に入ろうとドアノブに手をかける。

「俺の好きなやつ、お前だよ。」

後ろを振り向いた時には
誰もいなかった。
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