心泥棒!!
「ごめん。」
鞄を持って、席を立つ。
通路を通って帰ろうとしたとき。
「逃げんの?」
マイクから通る、悔しくもきれいな声。
「逃げんの?心ちゃん。」
お前に名前を呼ばれたくない。
振り向くと、見覚えのある顔が
ステージに並んでいた。
「裕斗から逃げんのは勝手だけど、俺らの音楽からは
逃げないでくれる?」
何が音楽だよ。
人の心散々にしたくせに。
「・・・よ。」
「え?」
ふざけんな。
「人の心壊すやつの音楽なんか誰が聞くかよ!!!」
誰を敵に回したっていい。
もうお前らから、彼から解放されたい。
「心ちゃん?」
「お前が、あんなこと言わなかったら
こんなことにはなんなかったんだよ。
何偉そうに、俺らの音楽から逃げるな、だ。
かっこつけんなよ。」
会場がざわつく。
それでも、一回切れてしまった
堪忍袋の緒は
もう、どうにもならない。
「友達使って呼び出すしかできねえ
チキン野郎に、もう用事なんてねえよ。
話があるなら直接言いに来い!!!
できないなら二度とかかわってくんな。」
最後、自分がどれだけひどい顔になっていたか。
声がかすれて、もう何もわからない。
目の前がぼやけて、彼の顔も見えない。
ただ、涙と、醜い自分がいる。
「お願いだから。」
これ以上、私を狂わさないで。
これ以上、君のそばに入れると期待させないで。
これ以上、好きになりたくないんだよ。