例えば、もしも…
バンッと両手を付き、胡座をかく俺の方にずいっと顔を寄せた彼女は、気迫に溢れていて、少し…ほんの少しだけ、怯んだ。


「私の方が誕生日早いんだから先に死ぬじゃんっ!」

「なに、お前は俺より長生きしてぇの?」


何かと思えば、どっちが先に逝くかが問題のようだ。
確かに、同い年ではあるが、彼女の方が俺よりいくらか誕生日が早かった。


「だって、私が先に死んだら新しい彼女出来るかもじゃん!」

「いや、俺ら3ヶ月と9日しか違わねぇから、俺すでにお爺さんじゃん!」


必死に訴える彼女の言葉に、俺は冷静に答えた。

99歳8ヶ月と22日のお爺さんが、残りの短い人生で彼女を作ると、真剣に考えているのだろうか?


「でも、3ヶ月と9日あれば恋するかもでしょ!だから、嫌。私が先に死ぬから嫌。」


…真剣なようだ。


「俺が先に死んだら、お前にだって新しい彼氏出来るかもだろ?」


と、言うか…百年たっても夫婦にはなってないんだな?何て考えた。


「それはない。」

「なんでだよっ!」


彼女は勢いよく頭を振った。それはもう契れてしまいそうな程、力強く。


「自信があるから先に死にたくないんじゃん!解れ!」


頬を膨らまして、真剣にキレている彼女は俺の頭を叩いた。

俺がただ黙っていると、少しだけ冷静を取り戻したようで、逆に聞かれた。


「じゃあ、逆に聞くけど…例えば、もしも…百年きっちりだとしたら?」


そんなの、決まってる…


「俺、損してる。」


絶対、損してる。
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