晴れ·ドキドキ·ズッキュン
3。にゃんこ、危機一髪!
 今朝、 駅のホームに立って、ボーっと向かいの線路を見たの。

 昨夜は特に何かをする訳でもなく、つけっぱなしのテレビを見てた。

 番組は面白くもなかったし、それすら曖昧なほど、なんにも残ってない。

 それが毎日。
 それが、アタシなの。

 社会人になって、初めての一人暮らし。うるさい親元を離れたはずなのに、ぽっかりと穴の空いた生活がつづく。

 こんなはずじゃなかった……って、何度つぶやいてみても、どうにもならならない。

 なぜなら、そんな気力すらも寝不足が奪ってしまったから。もう頭が回らない。

 最初のうちは、良かった。自由が心地好かった。

 でも、どうしようもなくなって、そのことに気付いた。

 今のアタシ……幸せじゃないなって。


 それでもアタシは、決まった電車に乗る。空っぽのカラダが、ホームに突っ立ってる。

 ──そんな、時だった。

 何か歩いてくる……。黒くて柔らかそうなもの。

 よぉく、見てみる。

「ネコやん」

 ちょいと小太りの黒ネコ。線路の上にツンと下り、後はとんとん。シッポピンッと立てて歩いてるし。

「やぁん。ネコって癒される……」

 いや待て、待て。そこは線路。よく考えたら、危ないし。

「電車が近づいてきます。ホームの……」

 アナウンスが流れてた。

「え? ネコいるし……」

 アタシ、ひとりでハラハラしてた。傍目からは、切符をなくしたドジな客に見えたと思う。

 ──すると、アナウンス終わったと同時に、ぴょんと線路から降りて電車をよけた。

 電車が通り過ぎると、また線路の上にのって、今度は枕木で爪を研いでいた。

「なんや、余裕やん……」

 思いっきり、ガリガリしてから、また線路を歩いて行った。

 シッポをフリフリしながらね。

 可愛かった。
 ドキドキした。

 でも、周りを気にしない、この奔放さが堪らない。


 あれ? アレレ!?

 ほろり。

 流れたのは、どこかに置き忘れていたアタシの涙。

 ビックリした。
 正直、突然だったし、何で? って。

 でもアタシ、わかったよ。

 間違いなく、空っぽナンかじゃないってコトを。
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