晴れ·ドキドキ·ズッキュン
「でも……」

「そんな消え入りそうな声……すんなって。大丈夫だから」

「はい」

「たださ。麻美ちゃんは、ちょっと頑張りすぎかなー、て思うよ」

「えっ!?」

「僕はね。家族のために頑張っているんだ。ほら、これ」

 彼はボロボロになったチョコレート色の免許証入れを、ズボンのポケットから取り出すと、免許証の後ろから写真をつまみ出す。

「ご家族ですね?」

「そうだよ。だから、頑張れる」

「はい……」

 山を背景に、店長の妻と娘が写っている。三人とも笑顔だ。

「それ、写真館で撮ったんだよ」

「そうなんですか」

「後ろの景色はスクリーン」

「えっ?」

 言われないと気付かなかった。しかし、よく見ればわかる。

「脱サラしてさ、店がね、軌道に乗るまではどこにも行けなくてね」

 残っていたコーヒーに飲み干し、カップを手の中で潰す。

「僕はね。こうやって犠牲にして来たものがある。──だからこそ、無理はしない。この意味、分かるかい?」

「……」

「アノ時のオッサン、何か言ってやがった、て、いつか思い出してくれれば、嬉しいよ」

 家族の写真をしまいながら、立ち上がった。

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