春夏秋冬【短】
密かに香りを感じる距離
そこまで近付いて、あるものを見つけた
先刻(さっき)は気が付かなかったけれど…。
「この黒いのは何なのですか?」
右手でそれを指差させば、旦那様は何のためらいもなくそれをもいでしまった。
「これは種ですよ。」
なぜだか誇らしげに手を差し出してくる旦那様
旦那様の手のひらに転がる黒くて丸い塊は、花とともにたくさんついているけれど
綺麗な花に似合うとは言い難い
「…夕化粧には別名があるんですよ。」
物珍しさ故にまじまじとそれを眺めていると旦那様は種を摘み、
「あぁっ!?」
爪を立てて割ってしまった
突然の行動に声を漏らしてしまい私は慌てて口を塞ぐ
「見て?」
またしても差し出される手
だけれど、其処に黒い種は無く、
ただ白い粉が広がっていた