隣の先輩
「私、504に住んでいるんです。だから、あの」


「そういう意味じゃなくて、この前隣が越してきたからもしかしてと思って」


 彼は私を向き直ると目を細める。


「よろしく。安岡さん」


「名前、どうして」


 私は彼に名乗った記憶はなかった。


「挨拶に来た人がそう名乗っていたから。お母さんかな」


 彼の言葉に納得する。


「あなたは?」


「俺は西原稜」


 そこまで言って、一旦言葉を切った。そして、艶のある黒髪をほんの少しかきあげて、苦笑いを浮かべていた。
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