隣の先輩
 そんなに強い力ではなかったのか、痛くはなかった。でも、あまり触られると心臓に悪い。


 先輩の手が離れる。同時に私から目をそらし、私がさっき見ていた、空に視線を向ける。


 先輩はよく分からない人だ。


 優しかったり、そうでなかったり、いじわるなことを言ったり、今みたいに意味が分からないことを言ったりする。


 出会って一ヶ月とかその辺りで先輩のことを知れることもないとは思うけど、

多くの顔がありすぎて、どれが本当の先輩なのかよくわからない。


いつの間にか綺麗だった空は闇に包まれていた。


 冷え切った空気に体温を奪われそうになり、肩を抱く。


「寒い? 何か貸そうか?」

「大丈夫ですよ。隣だし」


 先輩がちらっと振り返る。

「そうだな」
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