隣の先輩
 でも、その根本は多分、自信がなかったからなんだと思った。

「浴衣を着て、途中まで行ったけど、私なんかより浴衣がすごく似合っている人がいて、なんだか自信がなくなっちゃって。それで、嘘ついて」


 先輩の手が私に伸びるのが分かった。


 怒られるかもしれないって思った。


 でも、その手は私を叩いたりはしなかった。


 私の頭を撫でていた。


「浴衣って白い布地の浴衣?」

「なんで。もしかして見たの?」


 私は思わず先輩の顔を見ていた。


「俺じゃなくて、母さんがね。真由ちゃんがかわいい浴衣を着て出かけていたって聞いたから。マンションの前で見たんだってさ」


 見られていたんだ。


 そう実感すると、恥ずかしくなってきてしまった。


 先輩は少し考えたような顔をすると、息を吐く。


「本当は、他の人と一緒に見たんじゃないかって思っていた」

「私がですか?」
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