隣の先輩
「そのことでいろいろ相談に乗ってくれたりも助けてくれたりもしたんだ」


 咲の笑顔を見ていると、心がほっとしていた。困っている人を放っておけないのかもしれない。映画のときのように。


 嬉しかったけど、どこかほんの少しだけ寂しかった。


「先輩って優しいね」


 思わずそう口にしていた。


「そうだね。でも、真由には特別に優しい気がするんだけどな」


 咲の言葉に思わず顔が赤くなる。


「それは多分、先輩が子ども扱いしているからだと思うよ」


「そうかな」


 咲は腑に落ちないような表情を浮かべていた。


「でも、それだけなら映画に連れて行ってくれたりまではしないと思うよ。先輩って恋愛映画はすごく苦手そうだったし」


「そうだと嬉しいけど、先輩の気持ちって分かりにくいし。それに、先輩に振られたら、戻ってきたときに顔を合わせにくいなって思うの」



「先輩、県外の大学を受けるの?」


 咲は知らなかったんだろう。驚いたような表情を浮かべていた。


「みたいだよ。でもね、次の夏休みに一緒に花火を見に行ってくれるって約束したの。だから、それまでは言えないかなって思っている。告白なんかして、気まずくなったら嫌だしね」


「そっか。来年の夏休みって遠いね」


「そうだね」


 でも、私は来年の夏休みになったら、先輩にそのことを言えるのかな。


 そんなことは言えなくて、先輩に恋人ができるのを指をくわえて待っているだけになりそうな気がしていた。


 それは寂しいけど、自分から踏み出すのは怖かった。


 先輩の恋人にならなくても、次の夏休みまでは思い出を作ることができるかもしれないから。


 私はものすごく臆病な人間なんだろうなって思う。


「先輩から告白してくれたらいいのにね」


「それはないと思うから」


 私は咲の言葉に苦笑いを浮かべる。



 咲たちには言っていないけど、先輩には好きな人もいるから。

< 425 / 671 >

この作品をシェア

pagetop