隣の先輩
 その日の夜、私はお風呂からあがると、その足でベランダまで行くことにした。


 さっきまでお風呂に入っていたので肌は火照っているが、夜の涼しい空気がほんの少しそんな肌を落ち着けてくれる。時折、忘れていたようにぬれた髪の毛をタオルで拭く。


 空を見上げると、空には無数の星が瞬いている。


 この場所に引っ越して驚いたことに一つに、見える星の数が多くなったことだった。


 もっと光の少ない場所に行けば、もっと多くの星が見られるのかもしれない。



 空を見るのは意外と楽しくて、先輩とたまに言葉を交わせるからか、ある種の日課のようになっていた。


 その日も外に出たのはそんなよくある日常行為を繰り返していただけだ。


 でも、今日に限っては空を瞬いている星をいくら目で追っても、目に入ってこなかった。


 そのかわりに脳裏に蘇るのは、夕焼けの中にいた二人の姿。


 私は一緒に帰る二人を見ていられなくて、少し遠回りをして帰っていた。


 咲の話を聞いた後だと、自分の心の狭さが嫌になってしまうくらいある。



 そのまま腕を前方に伸ばし、そこに顔を押し当てる。


 頬を膨らませると、息をゆっくりと吐いた。


 そのとき、先輩の家のほうから聞きなれた声が聞こえた。


 別に同じ聞きなれた声でも先輩の声だったら、反応はしなかったと思う。


「まさか」

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