隣の先輩
「花火大会?」


 私は先輩に聞き返す。


「そう。あっちの方角かな」


 先輩の指の先端が見えたので、少し気持ちを入れ替えて、先輩の指先の方角に視線を向ける。


 でも、遮るものがあったのか、その光の破片さえも覗くことができない。


「見に行きたかった?」


「来年でいいですよ」


 早く約束を消化してしまったら、もう先輩と会う理由もなくなってしまうから。


 だから、来年ということにしてよかったと思っていた。


 今ならまだベランダや学校でも会えることができるから。


 叶わない思いを抱いた先輩との間にある数少ない思い出を作るチャンスだから、こんなに早くその約束を使い切るのはもったいない気がした。


 星の瞬く夜空に


 花火の打ちあがる音が響いていた。



 私は先輩と、何も言葉を交わすことがなく、ただ時間を過ごしていた。



 彼女にはなれないけど、今は先輩とこうして一緒の時間を過ごすだけで幸せだと思っていたのだ。


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