隣の先輩
 言えるわけない。先輩に失恋して、先輩に相談するなんて、普通の思考回路があればできない。


 でも、先輩のそんな言葉が嬉しかったから、そのまま受け止めておく。


 それに返事をしないと変に思われてしまうと分かったからだ。


「そのときはお願いしますね。そんな必要もないのが一番ですけどね」


 先輩は「そうだな」と言うと、笑っていた。


 私はもう一度、視界にその淡い空が映るように、体を動かす。


 その淡い空の淡さが増している気がした。


 そして、沈もうとしている太陽も、いつもよりおぼろげに見える。



 目に溜まった涙を拭うと、横目で先輩を見る。


 彼の手の指だけは相変わらず、覗くことができた。


 そのとき、ある疑問が脳裏を過ぎる。


 どうして先輩はベランダに出てすぐに、私がいることに気づいたんだろう。


 私の部屋から先輩の家のベランダを覗くことができないように先輩の部屋から私の家のベランダを覗けないからだ。
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