隣の先輩
 空はどんよりと雲り、太陽の光どころか、辺りを照らす街灯の光さえ届かないほど真っ暗だった。


 曇り空はいつもこの時刻に空を覆う眩しいほどの夕日をかき消してくれる。


 そんな当たり前のことに今更気づき、ほっと胸を撫で下ろす。


 こんな日に夕日を見たら泣いてしまいそうだから、これでよかったんだって思った。


 早く帰ろう。



 そう言い聞かせる。


 家に帰るために、足を踏み出していた。


 そのとき、靴の先に透明なものが当たり跳ねた。それは残骸だけ残して、あっという間に砕け散る。


 私が空を見上げると、夕日を遮っていた雲が、今度は視界を霞ませる前準備をしているのに気づいた。


 あっという間に曇り空を忘れさせるほどの大粒の雨が辺りに降り注ぐ。


 もっていた傘を開く。私を打ち付けていた雨の存在が消える。


 私を上から濡らすものは、私を覆う傘に邪魔され、そこまで容易く、私を濡らすことはしなかった。


 でも、私の頬に冷たさを感じる。それはゆっくりと、私の頬を伝っていく。


 それは顔だけを伝い、髪の毛をぬらすことはない。


 ばかみたい。


 その正体に気づいて、自分で自分を笑っていた。


 家に帰って、リビングを通らなきゃいけないから、それまで我慢しなきゃいけないのに、 流れてくる涙を堪えることができなかった。
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