隣の先輩
 それを認識したとき、瞳からこぼれる涙の量は勢いを増す。


 失恋しちゃったんだ。

 分かりきったことを改めて実感する。


 先輩にはやっぱり泣き言は言えないね。


 そう心の中でつぶやいたとき、、私の傍を誰かが過ぎ去るのが分かった。


 同じ学校の制服だって気づいて、目をそらす。


 でも、彼は過ぎ去らなかった。


「安岡?」


 その言葉に声の主を見ていた。


「森谷君?」


 思わず、その人の名前を呼んでいた。そのすぐ後に頬を伝うものに、気づいて、泣いていたのを思い出して顔を伏せる。


「どうかした?」


 私は本当にタイミングが悪いなって思う。


 どうしてこんなときに彼に会うんだろう。


 いつもなら、誰にも見られずに帰れるのに。


「失恋しちゃったんだ」


 そう言葉を押し出した。


 そのとき、彼は意味を理解したんだろう。悲しそうな顔をしていた。


 私と彼の間には視界を塞ぐものが雨しかなくて、彼の切なそうな顔から目が離せなかった。
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