隣の先輩
 私の目の前に湯気の出ている紅茶が出された。ほんのりと苦味と甘味のある香りが漂っている。


「少し落ち着いた?」


 私はうなずく。


 私は私の家から少し離れた森谷君の家に来ていた。


 彼の家は私の家から五分も離れていなかった。


 泣きやまない私を、自分の家なら誰もいないからと言ってあげてくれた。


 そして、彼が紅茶を出してくれた。


 私の膝にはタオルが数枚、折りたたまれた状態で置いてあった。


 彼が体を拭くために出してくれたものだった。


「図々しくごめんね」

 彼の言葉に素直についてきたのは、家族に見られるのはすごく辛いからだった。


 勘ぐられるのも、何かを察して何も言われないのも辛かった。


「いいよ。誰もいないから」


 そう言うと、彼は優しく微笑む。
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