隣の先輩
 彼はいつもそうだった。自分だけ特別だとは思わないけど、すごく優しい。


 その優しさが心をそっと包んでくれた気がして、少しだけ表情をほころばせることができた。


 私は紅茶を手に取ると、口に含ませた。


 少し甘い香りを嗅ぎ、ほんのりと胸が落ち着く。



「ずっと分かっていたの。先輩は私のことを相手にしてくれないって」


「西原先輩からそう言われたの?」


 私はうなずいた。


「そんなことないと思うよ。安岡はかわいいと思うし。それに」

 そこで彼は言葉を切った。それ以上は何も言えなかったのかもしれない。無理に人を褒めると、そういうことってたまにある。


 でも、森谷君の優しさが伝わってきて、ちっとも嫌な気分にはならなかった。


「ありがとう」
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