隣の先輩
 そう何度も言い聞かせていた。


「何かあった?」


 学校へ半分くらいの道を歩んだとき、先輩は足をとめて私にそう尋ねて来た。


「何もないですよ」


 今日、これが先輩に対して発した言葉だった。



 勝手に好きになって、勝手に失恋した。だから、先輩に理由なんていうことがどうかしているんだから。


「元気ないな」


 先輩の手が私の顔に伸びる。


 私は思わず、その手を軽く払っていた。


 驚いたように目を見開いていた先輩の顔を見て、自分が何をしたかに気づいていた。


「ご、ごめんなさい」


「いや、こっちこそ。女の子に易々と触れようとしたのが悪いから」


 嫌だったわけじゃない。ただ、今、この状態で先輩に触られたら、泣いてしまいそうだったからだ。
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