隣の先輩
 その手のあたたかさと、優しい言葉は私の涙腺を刺激してしまう。

 先輩は歩き出す。いつもより速い歩調は、私との距離を取りたがっているような気がした。



 私はゆっくりと歩く。


 もうほとんど会えないのだと思っても、自分から先輩との距離をつめ、話しかけることなんてできなかった。


 そんな私の気持ちを追い立てるように、後方から甲高い声が届く。


「西原先輩」


 振り向くと、そこには同じ学校の制服を着た子が立っていた。


 見たことのない子だったので、何年かは分からない。


 でも、その赤い顔を見ていると、何のために先輩を呼び止めたかは分かる。


「話があるんですけど」


 そう言った彼女の視線が私に向けられる。


 彼女は先輩が何かを言う前に、言葉を続けていた。


「お友達と一緒だったんですね。ごめんなさい」


 緊張しすぎて、先輩しか見えなくて、私の存在に気づかなかったんだろう。


 そういう気持ち分かる気がした。


「話なら昼休みにでも聞くよ」


 人に好きと伝える勇気はそう何度もわくわけじゃない。

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