隣の先輩
 ケーキを取ろうとして、間違って触ってしまったんだろう。


 いつもの先輩の温かい手にドキドキし、目をそらしていた。


 先輩が私の手をつかむ。


 突然されたそんなことにドキドキして頭が混乱していた。


「お前、すごい冷たくなってんだけど」

「え? あの」


 そんな言葉で現実に引き戻される。


「そんな格好で待っているからだよ」

「でも、ちゃんとコートも着ているし、ブーツも履いているから」


 先輩は自分の首に巻いていた黒のマフラーを首から抜き取る。


 そのマフラーを私の首にふわっと巻きつけていた。


「先輩?」


「風邪でも引いたら大変だから。嫌なら外すけど」


 嫌なわけはない。でも、先輩と同じものだと思うと、胸の奥が締め付けられたみたいに苦しくなってきていた。


 私が黙っていたからか、先輩は困ったような顔をする。そんな顔はずるい。


 だって、断れなくなるから。


「この前、洗ったばかりだから汚くはないと思うよ」


 汚いなんて思うわけがないよ。

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