隣の先輩

 そう言って先輩はケーキを指差す。


 今は寒いけど、一応あくまで要冷蔵のものだから、そう言ったんだろう。


「そうですね」


 私は先輩の言葉にうなずくと、家の中に入った。



 リビングに戻ると、裕樹の姿があった。彼は私をチラッと見たけど、すぐに視線を持っていた本に戻す。


「あの」

「何?」

「ありがとう」


 裕樹はたいして気にとめていないのか「ふーん」と言っていた。


 もしかすると、たまたまそうなっただけかもしれない。


 でも、裕樹は意外と鋭いから、気がついているかもしれないとも思った。


 その答えはきっと永遠に知ることはないけど


 でも、先輩が迎えに来てくれたのは先輩と、裕樹の優しさのような気がしていた。


 その日、食べたケーキはおいしかった。


 その夜、眠る前に窓の外に目を向ける。


 窓を叩きつけるものが、いつの間にか白いものに変わっていた。


 それはゆっくりと舞い降りる。



「雪だ」


 私は窓を開ける。でも、冷たい風が手や顔に触れる。


 もっと手を伸ばして雪に触れたかったけど、寒さには勝てずに窓を閉める。


 しばらく、窓越しにその白いふんわりとした雪を眺めていた。


 それはゆっくりとベランダや手すりに舞い降りる。朝、起きていると雪が解けていることは少なくない。

 
 でも、せめて今夜だけはその雪が降り続いてくれればいいと思っていた。
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