隣の先輩
始業式の日、先輩に学校に行くときに会う。先輩は怒っているわけでもなかった。
「あの写真は忘れてくれ」
よっぽど気になっていたのかそんなことを言ってきた。
顔を赤く染めている先輩の唇から白い息がこぼれる。
「分かりました」
先輩を困らせる気はなかったので、笑顔でそう返事をする。
先輩はゆっくりと歩き出す。
きっと二人の間には私の知らない時間があるんだろう。
それはすごく親密だと感じた最初の印象を思い起こせばすぐに分かる。
凍るような風が走り抜けていく。寒さを感じて、コートのポケットに手を突っ込んだ。
そのとき、指先にざらっとしたものが触れる。
それは先輩に買ったお守り。
私はそれを冷たい風が吹くポケットの外に出すことができなくて、ギュッと握り締める。
先輩と私との距離がさっきとは比べ物にならないほど開いていた。
先輩が足を止め、振り返る。
私は足早にその開いた距離を縮めていた。
何でもいい。たった一言を言えばこれを先輩に渡せる。
それが分かっていても、その一言を言うのが難しかった。