隣の先輩
「安岡」
振り返ると、そこには先輩が立っていた。
「今、帰り?」
「はい。そうです」
私は持っていた紙袋を、鞄の中に押し込んだ。
先輩に渡すものとはいえ、今知られるのは避けたかった。
「先輩は用事ですか?」
「買い物に」
「そうですか」
「お前ってこの時期好きだろう?」
先輩は特別表情を変えずにいつもどおりの表情でそう言う。
「どうして?」
チョコを買ったからか、ドキドキしながら先輩の言葉に応じていた。
「自分で自分用のチョコとか買ってそう。この時期には普通なさそうなチョコもあったりするから」
確かに買いたいとは思ったけど、それよりも先輩に渡すことになったらそんな考えはなくなっていた。
そんなこと言えるわけもなかった。
「でも、チョコ高いし」
取り繕うためにいったのは、そんな気の利かない返事。
「誕生日プレゼントはそれでもいいよ。残らないものがいいだろう?」
先輩はそう言うと笑っていた。