隣の先輩

 そんなことない。


 私は首を横に振る。


「残るものがほしい」


 それを一つの思い出にしたかったのかもしれない。



 その言葉に先輩は驚いたような顔をしていた。


 私は口にして、しまったと気づく。


「お前って半券とか残しておくタイプだろう?」

「は、半券?」

「映画のチケットとか」

「取ってますよ」

「何でも思い出として残しておくのがすきなんだ」


 先輩は笑顔で言う。


 でも、友達と遊びに行ったときと、先輩と行ったときは違っているから。


 そんな気持ち先輩に通じるわけもないけど。


 何も言えなくなって、顔を背けたときだった。

 私の視界に綺麗な髪をなびかせている人の姿が映り、彼女をじっと見つめていた。


 その人の名前を思い描いた直後に、その奥にいる人の存在に気づいてしまった。


 宮脇先輩よりもかなり背の高い長身の人。


 時折、彼女と話をするたびに、足をとめる。


 その度にその人の顔が確認できた。すごく顔立ちの整った男性だった。



< 563 / 671 >

この作品をシェア

pagetop