隣の先輩
転びそうになった宮脇先輩の腕をつかみ、からかうような笑顔を浮べている。すごく親しそうだった。同じ学校の人ではないような、もっと年上の人だと思った。
宮脇先輩は恥ずかしかったのか、顔を赤くして苦笑いを浮かべていた。
誰なんだろう。
もしかして恋人なんだろうか。
先輩のことが好きといっても、ずっと好きでいないといけないわけじゃない。
もし、好きになれそうな人がいたらその人とつきあってもおかしくない。
私たちが家に帰ると、間違いなくその方向を向く。
宮脇先輩が見知らぬ男の人と一緒にいるその姿を見かけてしまうんじゃないかと思った。
ただ、先輩に傷ついてほしくないという気持ちが優先していたんだと思う。
先輩はこんな姿を見て、傷付くのかもしれないと思っていた。
私は角を曲がろうとした先輩の手をつかむ。
「あの、何か食べませんか? お腹空いちゃって」
「俺の家に食べに来たら? 何か作ってやるよ」
こんなときに限って、食いつきたくなるくらいの言葉を掛けてくる。
思わず「はい」といいたくなる気持ちを堪えて、先輩に声をかけていた。
「でも、先輩」
「稜?」
少し低い落ち着いたような声。それは男の人の声だった。
振り返ると、宮脇先輩と男の人が驚いたような顔をして立っていた。