隣の先輩
 それに今、先輩に会いたいのだろうか。


 私はあれからしばらく先輩に会いたくなかった。


 私は唇を噛む。


 先輩は探さなくていいと言っていたけど、二人で探すより、三人で探すほうがいいに決まっている。


 こんな時間にはあまり出歩いたことはなかったから怖くないといえば嘘になる。


 場所は分かっている。


 私はコートとマフラーに手を伸ばす。携帯を忘れずに入れておく。


 部屋から出たとき、お母さんが眠っていてくれればいいと思ったが甘かったようだ。


 彼女はまだ起きていて、新聞を読んでいるようだった。


 ちなみに今日お父さんは泊まりで出張に行っているから帰ってこない。


「私、ちょっと出かけてくるから」

「真由?」


 驚いたような母親の声が響く。


 でも、母親の顔を見ていたら、間違いなくつかまったら外に出られないと思った。


 本当のことを話せばよかったのかもしれないが、宮脇先輩を理由に家を出るのも気が引けた。


「じゃあね」


 そのまま家を出てしまうしかないと思い、飛び出していた。


 私を呼ぶ母親の声が聞こえてきたが、足を止められるわけがない。


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