隣の先輩
「私は大丈夫です。だから、宮脇先輩が先に帰ってください」


「手、濡れちゃったね。よかったらこれを使って」


 そう言って彼女はコートのポケットに手を突っ込む。


 でも、そのとき宮脇先輩の顔が一瞬強張るのが分かった。


 彼女は少しだけ寂しそうに笑うと、首を横に振る。


「どうかしたんですか?」


 私は思わず彼女に問いかけていた。



「そっか。真由ちゃんには話したよね。ピアスの話」


 私はその話を思い出し、胸が鳴るのが分かった。


「忘れるためにという話ですよね」


 私の言葉に宮脇先輩はうなずく。


 そう口にして自分で気づく。


「まさか」

「そう。失くしちゃった」


 そのとき、少しだけ宮脇先輩の目が潤んでいるのに気づいた。


 彼女は忘れないといけないと言っているのに、その瞳はそうしたくないと伝えているように見えた。


「どうにかして忘れないとと思って、ああやっていつ落としてもおかしくないように持ち歩いていて、

よりによって今日失くすなんてついてないよね」
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