隣の先輩
 彼女は私から手を離すと鞄からピアスを取り出し、私に見せた。


「真由ちゃんがこれを見つけてくれたから、私は稜のことを忘れられるって思ったの」


「私は何もしていないのに」


「だって、私のためにこれを探しに行ってくれたでしょう? 稜のことが好きなのにそうしてくれたのに気づいて、敵わないなって思ったの。

そう思ったら、ずっと好きだった気持ちがなんだかするっと抜けていった気がした。これで忘れられるかもしれないって」


 だが、私の思考回路はそこで止まっていた。


「気づいていたんですか?」


 彼女は私の言葉に頷く。


「これを見つけてくれた日に言っていたよね。稜には私が合うって。その言葉を聞いて、気づいたんだ。そしたら今までのことも全て納得できるなって思って」


 確かにそうだった。あんな言い方をしてしまったら気づいてもおかしくない。


「あれは忘れてください。つい口走ってしまっただけで」


 彼女は私の手を握り、そのピアスを渡した。あのとき、私が彼女にそうしたように。


「私に言ってくれたでしょう? 気持ちを失くしたらだめだって。それは真由ちゃんも同じだと思うんだ」


 それは雪の日に彼女に宛てた言葉だった。


「告白をするのは真由ちゃんの自由だけど、でもそうやって自分の気持ちをごまかすことはしないでね。大好きなんでしょう。稜のこと」
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