隣の先輩
 あのとき忘れようとした気持ちが蘇ってきて、目の辺りが熱くなってきていた。やっと忘れられるとバレンタインの日に決めたのに。


 どうしてこんな簡単にあのときの気持ちが蘇ってきてしまったのだろう。


 その答えは宮脇先輩の言葉の中にあった。


「私は彼女になれなかったけど、この先、稜の隣にいるのが真由ちゃんだったらすごく嬉しいなって勝手に思っているんだ。真由ちゃんのこと大好きだから。稜の気持ちもあるから一概には言えないけど」



 彼女は少し恥ずかしそうに笑っていた。


 私と同じことを宮脇先輩も考えてくれていたんだ。


「私もそう思ってました」


 視界がかすむのを感じながら、笑顔で応える。


「真由ちゃんの気持ち、いつかあいつに届くといいね」


 宮脇先輩の言葉は嬉しかった。でも、私はその答えを昨年知ってしまったんだ。


 あの雨の日に。


「悪いこと言った?」


 顔に出ていたのか、宮脇先輩は驚いたように私を見ていた。


「昨年の十二月に西原先輩から振られているんです。だから、それは無理かなって」


「そうなの?」


 彼女は目を見張り、私を見つめていた。



 宮脇先輩に聞かれたので、そのときの状況を話していく。


 彼女は難しい表情を崩さなかった。



「それって誰に言っていたの? 依田君?」




< 606 / 671 >

この作品をシェア

pagetop