隣の先輩
「分かりません。依田先輩じゃないです。女の先輩でした」


 宮脇先輩はその言葉を聞いて、表情を緩めていた。


「それなら気にすることはないと思うな。真由ちゃんが全く親しくない子から好きな人いるって聞かれたら、稜のことが好きだって話す?」


「話さないと思います」


 今でも宮脇先輩を除けば、愛理と咲と森谷君と依田先輩以外は私の気持ちを知らないのだ。


 そう言って気づく。


 宮脇先輩は私の気持ちを代弁するように、すらすらと言葉をつむいでいた。


「そういうことかもしれないよ。相手が依田君とかならそれが本当かもしれないけど、そう決めるのは早いと思うよ。稜はああみえてガードが堅いし、相手の気持ちも分からないのに、好意的な返事をしたら相手に迷惑をかけてしまうのは分かっていると思うから」


 宮脇先輩はすごいなって思った。


 彼女は素敵過ぎて、私が敵うところなんて何一つなかった。


「告白したいと思ったら、私のことは気にしないでね。告白するときは相手の関係が壊れるかもと気になるかもしれないけど、稜は大丈夫だよ。証人がいるから大丈夫」


 そう彼女は笑っていた。


 実際、先輩が私を好きでそう言ってくれたということはないと思う。


 でも、宮脇先輩にそう言ってもらえたことがすごく嬉しかったのだ。


 だから私は彼女の好意に応えるために頷いていた。


 そして、手にしていたピアスを彼女に返した。


「それって先輩に買ってもらったんですか?」


「そうだよ。稜には驚かれたけどね。これも、稜を好きな気持ちも今は大事な思い出だね」


 あの日、捨てるように忘れようとしていた彼女の涙を思い出し、まだ半月ほどしか経過していないのにそう言える彼女は強いなと思った。


 そのとき、いつの間に帰ってきたのか、私を呼ぶ母親の声が聞こえた。




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