隣の先輩

 自分から話しかけたのに、それ以上言葉をつむぐことができなかった。


 本当はこんな時間さえ惜しいと分かっているのに、口だけが取り残されたように動いてくれなかったんだ。


「その、今お前がしているネックレスさ」


 物音一つしない、わずかなあかりだけがともる町並みに、優しい声が響いていた。


 私は首にしているネックレスに手を触れた。


「どうして分かったんですか?」


 もう夜の十時を回っていて、風呂を上がった後だった。


 普通なら、外していてもおかしくない時間帯だった。


「なんとなくしていそうな気がした」


 先輩の笑い声が聞こえてくる。


 本当に、私は分かりやすすぎるのかもしれない。


 笑い声が途切れると、先輩の声が聞こえてきた。


「幸せになれるって意味があるんだよな」


「先輩ってそういうのに詳しいんですか?」


「さっき母さんから聞かされた。さっきお前の首についているものを見たんだってさ。本当に、あの人はよく見ているというか。そういうのが大好きな人だから」


 いつ気付いたんだろう。全然気づかなかった。


「そういいますね。石にもいろんな意味がありますけど」
< 648 / 671 >

この作品をシェア

pagetop