隣の先輩
自分から話しかけたのに、それ以上言葉をつむぐことができなかった。
本当はこんな時間さえ惜しいと分かっているのに、口だけが取り残されたように動いてくれなかったんだ。
「その、今お前がしているネックレスさ」
物音一つしない、わずかなあかりだけがともる町並みに、優しい声が響いていた。
私は首にしているネックレスに手を触れた。
「どうして分かったんですか?」
もう夜の十時を回っていて、風呂を上がった後だった。
普通なら、外していてもおかしくない時間帯だった。
「なんとなくしていそうな気がした」
先輩の笑い声が聞こえてくる。
本当に、私は分かりやすすぎるのかもしれない。
笑い声が途切れると、先輩の声が聞こえてきた。
「幸せになれるって意味があるんだよな」
「先輩ってそういうのに詳しいんですか?」
「さっき母さんから聞かされた。さっきお前の首についているものを見たんだってさ。本当に、あの人はよく見ているというか。そういうのが大好きな人だから」
いつ気付いたんだろう。全然気づかなかった。
「そういいますね。石にもいろんな意味がありますけど」