隣の先輩
 
その指がエレベーターのボタンを押していた。思わず手の主を確認する。



だが、彼の姿を視界に映したとき、思わず声を上げそうになる。立っていたのはさっきの男の人だった。


 彼も私のことを覚えていたのだろう。目を細めて私を見ている。


「ここの住人だったんだ」


 私は笑顔でうなずいていた。


 ほんの一時間前の出来事で彼が覚えていても不思議ではない。だが、そんな些細なことが心をくすぐる。


「そうみたいですね」


 そのとき、うなり声と共に、エレベーターの扉が開く。
< 7 / 671 >

この作品をシェア

pagetop