キョウアイ―狂愛―
ジキルがクレアの視線の先に目をやると、ヴァンパイアどもの後ろから現れた黒髪の男が、丁度馬から降りているところだった。
その様は優雅で顔もおそろしく美形だ。
黒髪ながら放たれる雰囲気はクレアと同様に妖しく美しい。
そのためジキルは、この男がクレアを追う異形の主と悟るのに時間を要しなかった。
「やあ、クレア。記憶が戻ったようで何よりだ」
雷鳴轟く大雨の中、まるで木漏れ日の中にいるかのように朗らかに微笑みかけるサイファ。
しかし、機嫌はすこぶる最悪だった。
サイファの目に映るは、クレアの肩に添えられた汚らしい赤髪の男の手。
「記憶が戻ったのなら解るだろうが、別段ここで僕らが対峙する必要もない。
屋敷に戻っておいで、クレア」
芝居じみたサイファの柔らかい物腰を、少しも信用していないクレアは目を細め斜に構える。
「我が屋敷に戻ったとすると、この男はどうなる……?」
「もちろん処刑してあげよう」
朗らかな微笑みは黒いものに変わる。
「屋敷に戻らずとも、今すぐここで」