キョウアイ―狂愛―
クレアの踏みしめた土に体重がかかり、崩れた塊が崖から落ちて急流に飲まれていく。
サイファはギリと唇を噛み、クレアを押し、また後ろへ飛びのいた。
「クレア!!」
ジキルは剣を持つクレアの腕を掴んだが、びくともしない。
「お前はオレが守る!剣を離せ」
焦って叫ぶジキルに、クレアは漸く静かにゆっくりと視線を向けた。
「我は異形の怪異なれど、無益な血が流れるのは好まぬ……」
弱弱しい笑いとは釣り合わない脅威の怪力で、ジキルを襟元を掴み引き寄せる。
「お前の好意には感謝している……」
ジキルの目と鼻の先でクレアの美しい唇が開かれ釘付けになる。
次の瞬間、
柔らかい唇が重ねられていた。
誰もがその行為に目を見開いた。
「ク、レア……!」
「褒美だ…………」
クレアは余韻を残し唇を離すとそう言って、
今度はジキルの胸を押した。
バランスを崩したジキルは、目を見開いたままゆっくりと谷底へ吸い込まれていった。