キョウアイ―狂愛―
アルザスがクレアの切り札としての価値を実感したのは、クレアを城に置いてから数日後。
どこから情報を嗅ぎ付けたのかリドル家はアルザスの屋敷にクレアが匿われている事にいち早く感づいた。
近く情報を流すつもりのアルザスにとっては好都合であったが、
(それにしても早い)
自分の前に現れた剣呑な瞳をしたサイファを見て、アルザスは笑みを漏らした。
「ここで我々の探していた同胞が世話になっていると聞いたのだが」
「確かに盗賊に囚われていたらしい女を見つけ介抱したが、そちらの屋敷の者だとは思わなかった」
(あの餌はよう魚が食いつく……)
アルザスは腹の中でほくそ笑みながらもシラを切った。
「そう……屋敷の女が一人、盗賊に囚われていた。
手厚い看護には感謝する。しかし、即刻連れ帰りたいので引き渡しを願う」
サイファは通された間で、用意された椅子に座らず立ったままアルザスを急かした。
(焦燥を隠しもしない……
敵に弱点を明かしているようなものだ)
「我としても、そちらの屋敷の者と知った以上すぐにでも帰して安心を与えてやりたいのは道理。
しかし、肝心の御仁が同意を示さぬのだ」
「何故かは解らぬが……」
そう付けたし、アルザスは肘をつき、ゆっくりとサイファを見据える。