キョウアイ―狂愛―
「女を連れ戻したくば、敵意より忠誠を……」
アルザスがゆっくりと口を開く。
「ヒプソン卿の領地、グリーンリーフでそなたが男を一人切った時、庇いだてしたのは我ではないか?」
「……リドルは十分にそちらに力を提供している……」
サイファは未だ不審をあらわに低い声で返した。
「これまでも我等は上手く需要供給のバランスを保ってきた。
これからもリドルの力を期待しているぞ」
「それは……そちらの出方次第だ。
……今日はこれで引く」
一礼するとサイファはサッと身を翻し広間を後にした。
サイファの去った広間でアルザスは一人冷めた茶に手を伸ばした。
カタカタとカップを持つ手の震えに気づくと笑いが込み上げた。
研ぎ澄まされた殺気は獣のようだった。
しかし、感情の起伏の激しい者程扱いやすいのも事実。
今まで何を考えているのか、読めない所の多かったサイファが、まるで人間らしく感情豊かな様は見ていて面白かった。
ある種の親近感がわいていたと言えるだろう。
(ただ、解せぬのは……)
よく見れば美しくもあるが、一見地味な何の取り柄もない女、クレアに何故、あれほどまでに執着するのか?
アルザスにはそれだけが不可解だった。