キョウアイ―狂愛―






クレアは中庭で花を摘んでいた。


(こんな事をしたい訳じゃないのに……)

体調がよいのなら気分転換に中庭に出てもよいと言われ、とりあえずはそうした。



不安は募るばかり。


シアンの生存どころか、ジキルの行方さえ分からない。



心ここにあらずといった感じで植わっている花をたおっていた。








そんなクレアを偶然、アルザスの城から去る途中のサイファは見つけた。



怒り冷めやらぬまま回廊を足早に歩いていたサイファ。
ふと庭に目をやった。




中庭の柵に囲まれた手入れされた美しい花園のベンチに、上等なドレスを身に纏ったクレアがいた。





立ち止まったサイファにクレアもたまたま顔を上げた。






二人の視線がぶつかる。




「あ……」




クレアは声を上げ立ち上がった。




「……」


サイファは無言のまま向きを変え、庭に足を踏み出した。




「来ないで!」



制止を無視して近づくサイファ。



クレアは花園から離れようと立ち上がった。


中庭の奥へ走り出すクレアの腕からは、摘んだ花が

一輪、

また一輪と、


道しるべのように落ちていった。




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