キョウアイ―狂愛―
「…………」
乱れた花の散らばる真ん中に一人残されたクレアは、しばらくその場で立ちすくんでいた。
散らばった花を拾おうとはしなかった。
その無惨な姿は、サイファに踏みにじられた自分に似ていた。
どれほど足掻いても、何故か同じくらい全力をかけて阻止してくる。
(……あたしは、……間違っていた)
クレアの頭の中にポツンとそんな考えが浮かんだ。
シアンの生死より、
ジキルの行方より、
先にやるべき事があった。
その考えはじわじわとクレアを支配していく。
(もっと根本的なこと)
―――サイファを殺す
元凶を絶たなければ、どこへ逃げたって、誰といたって同じ事が繰り返される。
アイツはいつだって笑って、この花と同じように人の命を踏みにじってきた。
これからもきっと……。
……殺して やる。
恨んでも恨みきれない。
シアンの分も、ジキルの分も
常におとしめられてきた自分の人生の分も……!
芽生えた殺意は急速にクレアの意識として広がり、もはや抑えることはできなかった。
蒼白の顔のまま手を白くなるまで握りしめ、クレアは血を分けた兄弟の抹殺を固く決意した。