キョウアイ―狂愛―
「この度のレスカトールでの働き、ご苦労だった」
サイファは戦地よりアルザスの城に戻り、取り急ぎ報告を済ませた。
血にまみれた身を黒い装束で隠し、アルザスの話を聞くサイファは、心ここに在らずといった風で、絶えず石造りの広間の外を気にしているように見える。
アルザスはフッと苦笑し言葉を切った。
「クレアなら問題ない。体調もずいぶん良くなった。
ここに呼ぼうか?」
サイファはハッとして顔についた血を無意識にぬぐった。
途中で自分の行動に気づくと手を止め
「……いや、いい。屋敷に戻る」
憂えた表情を作り、広間を後にした。
後に続き、広間を出たマイメイは、去り際にアルザスの口の端に浮かんだ笑みを目に入れ
(趣味の悪いお方。サイファ様のお気持ちを分かった上で確認されたのね)
嫌悪を覚えた。
サイファの城に上がる回数は格段に増えたが、
かといってクレアに頻繁に会っている訳ではない。
様子をアルザスや部下から伝え聞いたり、たまに遠くから姿を眺める程度だった。